* 「その後」 作 : 雫 様


真冬なのに少し暖かい位の気候。
魔法都市ダリル。
ここで暮らすようになって一ヶ月が過ぎた。
集中教育を終え、元の世界に戻る予定をキャンセルした私。
理由は一つ。
今、隣でうたた寝しているアトラック。
彼の側に居たいと思った。
時空を超え、世界を越えて巡り会えた運命・・・。
全てが偶然なのかもしれないけれど、彼に出会えた事を感謝します。

魔法学院シル内研究所
私はここでアトルの研究を手伝うことになった。
知識もない、勉強も苦手な私だったけれど、アトルはこれから知識を増やせば良いと言ってなかば強引に私を研究所へと誘った。
断固断わる理由もなく、誘われるまま研究所に通うこととなった。
書類や本が散乱している部屋から外の景色を眺めていると
穏やかな暖かい風が開け放った窓から入ってくる。
テーブルの上の開かれた本のページがパラパラと音をたてた。
「ん・・・。」
耳に届いた微かな音にアトルは目を覚ました。
「アトル、起きたの?」
私は目を少し擦っている彼に声をかけた。
「あぁ・・・コーラル・・・どうやら眠ってしまったようだね。」
「昨日は遅くまで起きていたんでしょう。」
「ふふ。しょうがないのだよ。熱中してしまうと時間を忘れてしまってね。」
メガネをかけながら彼は微笑む。
人を怯えさせてしまう程の魔力を隠す優しい微笑み。
私の前では無理に笑顔を作らなくても良いと言ったのに。
強い魔力を持っていても、誰も傷つけたくないと思っている優しいアトル。
それを知っているから怖いなんて思わないのに。柔らかい笑みと口調。他の人と接する時と変わらない。
それが不満だとは思わないけれど・・・
「コーラル?」
つい考え事をして黙り込んだ私の顔を不思議そうに覗きこむ。
「あ、ごめんなさい。ぼーっとしていて。」
「何を考えていたか当てようか?」
そう言うと、くすりと笑う。
「え?」
「何故私は態度や口調が変わらないのか。違うかい?」
「あ・・・えと・・その・・通りです。」
考えていた事を見抜かれてしまい、少し俯いてしまう。
「これは別に無理をしているわけではないのだよ。」
「うん、それは分かっているんだけど・・・。」
「不満かな?」
少し首を傾げて私の顔を見るアトル。
その顔を見上げるようにまっすぐ見つめて私は言葉を紡ぐ。
「不満というか、他の顔も知りたいの。・・・前に「俺」って言った事があったよね?そういうのもアトルの顔だと思うから、見てみたいの。」
「ずっと・・・こうやっていたからね。でも君の前でなら自然に色々な顔が見せれるような気がするよ。いますぐには無理かもしれないが。」
微笑んで私を抱き寄せる。
そして耳元で
「時間はたっぷりあるのだから、ゆっくりと進んでもいいのではないか?」
私は彼の腕の中で小さく頷いた。
そうだよね、時間はたっぷりあるのだから。
彼の腕の力が緩まり少しだけ体を離して
「コーラル・・・。」
私の名を囁くと頬に触れるだけの口付けをした。
「アトル・・・。私ね、ここに残って良かったって思っています。貴方の側に居られる事が幸せだと思うから。」
彼は一瞬驚くように目を開いたが、すぐに微笑みもう一度私にキスをしようと顔を近づけてきた。その時―――
「アトルー、コーラルー居るかー?!」
バタンッと大きな音を立てて部屋のドアが開かれる。
ドタドタと足音を響かせながら部屋に顔を出したのはタイムだった。
「これから皆でカフェに・・・・・・。」
そこで言葉が途切れる。
アトルと私が抱き合ったままの姿を見て、
「じゃ、邪魔した・・かな?」
「タ・・タイム・・・。こんにちは。」
アトルの腕からパッと離れてタイムに声を掛ける。
『は・・恥ずかしい。見られたよね。うわーん。』
「おや、タイム。何か用事があったのかい?」
アトルも穏やかな笑顔を作る。
「え?!あ、あぁ、カフェに皆で行くんだけど、一緒に行かねぇか?」
「ああ、別にかまわないよ。コーラル先に行っててくれ。俺はタイムに話があるから。」
「「は!?」」
私とタイムの声が重なる。
「ちょ・・アトル?!今、俺って言わなかったか?!」
初めて聞いたアトルの砕けた口調にタイムはすぐに反応する。
「言ったがどうした?」
少しずつタイムとに近づいていく。タイムは妙な迫力のアトルに一歩ずつ後退していく。
「お・・怒ってるのか?」
「コーラルとの甘い一時を邪魔されてはな。」
「わ、悪かった。知らなかったんだって。こ、コーラルからもなんとか言ってくれよ。」
困った顔で私に助けを求めるタイム。
「アトル!タイムだってわざとじゃないんだし、もういいじゃない。」
ね?と、上目使いにアトルを見るが
「ふふ。コーラル。君は優しいね。」
私に微笑むアトルの顔はいつもの穏やかな笑顔で、ほっと一安心・・・
「でも、わざとでも故意でもこれだけは・・・ね。」
「「ええ!?」」
くるりと向きを変え、
「さ、タイム。外に出て話をつけよう。」
「うぇぇ!?は、話って・・・なんかアトルがアトルじゃねぇ!!」
叫ぶタイムの首を掴んでズルズルと表に引っ張っていってしまった。
二人の出ていったドアを呆然と見つめて
「い・・行っちゃった・・・。大丈夫かな、タイム。」

−数分後−
「コーラルさん、こんにちは。」
「遅かったな・・・。」
カフェに着くと最初に来ていたルカとスカイが声をかけてくれる。
「ルカ。スカイ。こんにちは。」
側の椅子に腰を降ろして話をはじめる。
「タイムとアトルはどうしたんです?」
ルカが私が一人なのを不思議そうに尋ねる。
「タイムが呼びに行ったのではなかったのか?」
「う、うん。来てくれたんだけどね・・・。」
今までのいきさつを掻い摘んで二人に話した。
「あはは、また・・ですか。今度はタイムの番なのですね。」
「・・・暫くは来そうにないな。」
二人同時にため息をついた。
「また?またって何?」
首を傾げてたずねると、くすくすと笑ってルカは答える。
「アトルはコーラルさんの事になると性格が変わってしまうようですよ。」
「私のこと?」
「ええ。コーラルさんとお付き合いするようになってから独占欲が出てきたというか・・・。他のことは大抵笑って受け流すんですが、どうやらコーラルさんは別みたいで。ふふ。」
「初めて被害に合ったのは私だったのだ。」
横からふいに言葉がかけられる。
「スカイ!?ひ、被害って・・何?」
「研究所で、アトルが居なかったとき一緒に話をしたことがあったな。」
「そりゃ、同じ研究所にいるから話はするよね・・・。」
「お前が先に帰ってから私はマスターに何故か怒られた。」
表情の変化があまりみられないスカイの顔が僅かに歪む。
眉間にシワを寄せ、ため息をついた。
「お・・怒られたって・・何て?」
思い出したくないのか口を閉ざすスカイ。それを見てルカは苦笑いをしながら
「コーラルさんと仲良く二人きりで話をしていたのが気に入らなかったようなんです。二人きりになるな、仲良くするな、俺の居ない間にぬけがけをするな。とかなんとか色々言われたらしいですよ。」
「ア・・・アトルが・・・。そんな事言っていたの!?」
「・・・あぁ。」
「ごめんなさい。」
恥ずかしいやら申し訳ないやらで顔を赤くしてスカイに謝る。
「もしかして・・・ルカも被害にあったとか・・・?」
おそるおそるルカの顔を伺う。
すると苦笑いをしながら
「・・・ええ・・まぁ。」
「うっ。ご、ごめんね、本当に。なんだかそんな事してるなんて知らなくて。」
他の顔を見てみたいと切に願った自分より、周りにそんな風に見せていたと知って
ひたすら謝るしか出来なかった。
それから30分後。
ようやく店にアトルとタイムはやってきた。
「またせたね。」
いつもと変わらない笑顔でアトルは席につく。
タイムは青ざめた顔でぐったりしていた。
やっぱりスカイの時のようにねちねちと何か言われたのだろう。
「タイム、大丈夫?」
私はぐったりしているタイムにお水を渡しながらたずねる。
「あぁ、なんとか。さっきは邪魔して悪かったな。今度から気をつけるよ。絶対。」
妙に絶対という言葉を強調していたのは気のせいじゃないだろう。
「い、いいの。気にしないで。それよりこっちこそごめんね。せっかく呼びに来てくれたのに。」
椅子に座ってしゅんとして謝っている私を見て、
「コーラル、元気がないようだが?」
アトルは声をかけてきた。
「そ、そんな事ないよー。普通に元気だよ。」
『誰のせいだと思っているのよ〜〜〜。』
「そうかい?それなら良いのだが。」
暫くして、アトルが席をはずした時に
「アトルは変わりましたね。」
ルカが口を開く。
「変わりすぎじゃねぇか?」
やっと回復したタイムがため息混じりに答える。
「変わった?」
どう変わったのだろう。私には分からなかった。
「ふふ、気付きませんか?」
「?えと、さっき話してた私と誰かが仲良く話していると機嫌悪くなるっていうの以外はわからないんだけど・・・。」
「・・・マスターの力が柔らかくなったのだ。」
スカイがぽつりと呟く。
「柔らかく?」
「人を圧倒させる魔力が柔らかい暖かな力になったのですよ。強い魔力は変わりませんが、昔のように側に居て怖いと感じる事が少なくなった気がします。」
「ああ、そりゃ言えてるよな。きっとコーラルのおかげなんだろうな。」
「私、なんかしたの?」
「コーラルさんが側にいるから変われたのだと思いますよ。」
「側にいるだけなのに?」
「ふふ、そうだと皆思っていますよ。」
ね?と問うとタイムもスカイも頷いている。
「そ、そうなのかな?もしそうなら嬉しいな。」
戻ってきたアトルに微笑みかけながら私は今、とても幸せなんだと実感した。
ここでの生活もだいぶ慣れてきた。
アトルはもちろんタイム達も変わらず仲良くしてくれる。
愛しいと思うアトルの意外な一面も今日のように少しずつ見えてきた事が
とても嬉しかった。
被害にあった皆には申し訳ないのだけれど。
これからもこの幸せが続きますように・・・。

fin



雫様から頂きました、アトルとコーラルのその後です。
コーラルは魔法都市ダリルへ残り、幸せに暮らしているンだなぁ、と(^-^)
…アトルの見事な崩れっぷりが面白いです(笑)
素敵なSS作品をありがとうございました。

2004年2月2日 : 中原 良