* 「タイムとラスの大冒険物語『幼い日の泡沫の夢』」 作 : 朔龍夜銀輝 様


今は離れている二人の兄弟も昔は一緒だった。
毎日楽しく二人で遊んでいた。
これは、その頃の話。
幼い兄弟の一日限りの大冒険…

 Θ−Θ−Θ−Θ−Θ

一体何が起こったのか。
そう言いたくなる状況が幼い兄弟に降り掛かっていた。
最初は二人で遊んでいた。
森の近くにある川で魚を取ろうとしていた。
それが、今の現状はどうだろう。
いきなりのどしゃ降り。
その雨を凌ぐ為に森の木の下に入った。
それも川のすぐ近くに生えている木の下に。
それなのに、気付けば周りには鬱葱と木が生い茂っている。
「ねぇ、タイム。」
「なっ、なんだよ…。」
「何でだろう。」
「こっちが聞きてぇよ。」
雨はもう止んでいた。
地面は濡れているものの雨の雫が落ちてくる気配はない。
「いつまでもここにいたって仕方ねぇよ。」
そう言って座り込んでいた木の根元から経ち上がる兄・タイム。
「でも、下手に動き回るとさらに解らなくなるんじゃ…。」
自分も立ちながらもその場を動こうとする兄を宥める弟・ラッセル、通称ラス。
「ここにずっといる訳にも行かないだろ?」
そう言い捨てるとタイムは一人で森の中を進んで行ってしまう。
「タイム!」
ラスはあわてて後を追うと一人突き進むタイムの隣に並んだ。
森は少し薄暗かった。
木々の葉が幾重にも積み重なり太陽からの光を遮る。
その間から零れ落ちてくる明かりだけが唯一の光。
木の陰から何か出て来そうな印象を覚える。
時々鳥の鳴き声が聞こえるが、辺りに響き渡り不気味さを醸し出していた。
 ビュウウゥーー
一陣の風が二人の後ろを突き抜ける。
やけに大きい音に二人は同時に飛び上がった。
「「わぁ!?」」
後ろに何かいる…。
そんな気配を感じた。
何が…とは解らないが絶対に何かいる。
ギラギラとした痛い視線を背中から感じるのだ。
ラスとタイムは同時に息を呑んだ。
そして、またもや二人同時に振り返った。
振り返った視線の先にいたものは……
「うみゃうー」
白い毛並みを持ったマウントキャットだった。
「マウントキャット? ヤバイ。逃げないと…。」
「ちょっと待った、ラス。こいつなんか違う。」
「えっ?」
この地方ではマウントキャットは警戒心が強く攻撃的な性格を持っているのが一般的だ。
そして、ほとんどの場合、いや、今まで報告された例ではマウントキャットの毛並みは必ず黒かった。
しかし、このマウントキャットは白い色をしている。
性格も穏やかなようで、タイムとラスに擦り寄るように近付いて来る。
「うみゃ〜う。」
二人に体全体を摺り寄せるマウントキャット。
「ラス。こいつ子供だ。」
マウントキャットの柔らかな毛並みを触っていたラスにタイムから声がかかる。
隣にいた筈のタイムはいつのまにかマウントキャットの後ろにまわっていた。
「子供? じゃー、尻尾が一本?」
「ああ、一本だけだ。」
もう一つのマウントキャットの特徴。
それは尻尾にある。
マウントキャットは成長して大人になると尻尾が二本になる。
一本だった尻尾がいつ二本になるのかは謎とされているが。
また成長の速度はマウントキャットごとに違う。
一年で大人になるものもいれば二、三年経たなければ大人にならないものもいる。
このマウントキャットはタイムとラスの肩辺りの背丈をしている所を見ると、どうやら生まれて三年ぐらいの大きさらしい。
マウントキャットの生態はあまり解明されていない為に詳細は知られていないが背丈から何年であるかだけは解る様になってきた。
とは言っても、これは一般的に知られているマウントキャットの情報であって、この白い毛並みを持つマウントキャットについても同じ情報とは言えないだろう。
「っていつまでもここにいる訳にいかないよ。タイム、進むならそろそろ進まないと。」
マウントキャットの毛並みがあまりにも柔らかく気持ちがいい為にタイムとラスはその心地良さを堪能していた。
上を向けば零れ落ちてくる光が斜めだった向きを真上に変えている。
今はちょうどお昼辺りだろうか。
朝から遊んでいた事、マウントキャットに気をとられていた事を頭に入れても随分と時間が経ってしまった。
早めに森の出口を探し家に帰らなければ薄暗い森で野宿をするはめになる。
幼い二人にはそれは酷な事だろう。
マウントキャットも気になるが今は自分達の身の安全を考えるべきだ。
ラスはそう判断し、いまだに毛並みを触っているタイムを引っ張る。
「タイム。聞いてるの?」
引っ張るラスを軽くいさめながらタイムが口を開く。
「いいじゃんか、もう少しだけ。マウントキャットの毛並みなんて滅多に触れないんだぞ?」
「でも、早くしないと陽が暮れる。そしたら野宿しないとだよ。」
 ピクッ…
『野宿』と言う所でタイムの行動が止まった。
「野宿?」
「そう、野宿。」
一瞬考え込むような仕草を見せるタイム。
その行動を取ったタイムにラスは少なからず不安を感じた。
彼のいつものパターンからいってここは……。
「よし、野宿しよう!」
「やっぱり…。」
好奇心が旺盛なタイムは楽しそうな事があると後先考えずに行動に走る事がある。
そんなタイムにラスはほとんど振り回される事が多い。
「うみゃーう。」
二人の間にマウントキャットが体を置く。
それぞれがお互いに考え込んでいた為にその出来事には驚きを隠せなかった。
最も、タイムの場合は考えむというよりも浮かれていたと言った方があっていると思われるが。
「なっ!?」
「うわぁ!」
マウントキャットの体の大きさは二人の間の距離よりも大きい為に小さい体は後ろに倒れ込む。
 ドサッ
ほぼ同時に倒れる音が聞こえ、マウントキャットがその場に立っている。
「痛ってぇー。」
倒れた弾みで頭を打ったタイムは頭を摩りながら立ち上がる。
「痛てて。」
強かに背中を打ったラスは痛みに耐えながら立ち上がる。
「こいつ! 何してんだ。」
「うみゃうっ!」
反撃開始とばかりにマウントキャットに軽く握った拳をぶつけ様とする。
しかし、その攻撃はあっさりとかわされ、マウントキャットはラスの後ろに隠れてしまった。
「アハハ。タイム、怖がられてるよ。」
「チェッ。」
ラスがマウントキャットの頭を撫でながら言うとタイムはまた歩き始めた。
ラスもそれに続く。
そして、その後には何故かマウントキャットもついてくる。
「こいつ、着いてくるけどどうする?」
先に進んで前方を確かめがならラスに聞くタイム。
タイムの目の前には以前、鬱葱とした森が広がっている。
果てが見えない広大さが覗える。
真上からの光はまた傾いた様に感じた。
「タイムはどうしたい?」
前方を見つめたままのタイムに対してラスは時々マウントキャットに目をやっている。
子供だと思われるが、何故このマウントキャットは白いのか。
ふと、その疑問が浮かぶ。
「俺はこのままこいつをほおっておけない。」
ラスがマウントキャットに気をとられている間にタイムは後ろを振り返りラスの目の前に立っていた。
タイムも自分と同じ事を考えている。
何処か縋る様な瞳を持ったマウントキャット。
その瞳を見た時から何故かほおっておけない気がしていた。
「だったら決まりだね。俺もほおっておけないから。」
こうして、新たな共を連れて再び歩き始める事になった。

  Θ−Θ−Θ−Θ−Θ

葉の隙間から落ちてくる光が赤くなり始めている。
あいかわらず周りは木々で囲まれたままだ。
どれくらい歩き回ったのかわからない。
タイムもラスも幼い足ではもう疲れ切っていた。
今は腰を下ろし休憩をしている。
「ここから出る方法はあるのかよっ!」
「どう歩き回っても森の出口らしき所なんかないもんね。」
二人同時に漏れる溜息。
背中に感じる暖かな温もり。
それが、漏れた溜息を和らげてくれる。
マウントキャットの柔らかな毛並み。
タイムとラスの背中を包み込む温もりの正体はマウントキャットだった。
疲れて座り込んだ幼い二人にマウントキャットは背中を貸し与えた。
「あー、出口は見つからないし、スノウの親はいないし!」
マウントキャットに背中を預けたまま、タイムが喚き散らす。
彼が口にした『スノウ』とはマウントキャットにタイムが付けた名前。
白い色をしている事から付けた名前だ。
母親に話して貰った空から降って来る白い物体から取ったのだ。
「そもそも、マウントキャットって親と一緒に行動してるのかな?」
ラスも背中を預けたまま呟く。
上を向くとオレンジの光が落ちてくる。
だんだんと日が落ちていくのが見て取れる。
森の中に閉じ込められてどれくらいたっただろう。
川で遊んでいた筈なのに気付いたらここにいた。
青かった空が今はもう赤い。
その赤い空さえもはっきりと見えない。
それが、幼い二人の心には少なからず影響を与えていた。
はっきりとしないモヤモヤとした孤独感。
二人でいる筈なのに微妙な喪失感がある。
この森の気質に当てられたのかは解らないが、知らない場所にいる不安は今頃になって現れ始めた。
「タイム、いつまで俺たちここにいるのかな…。」
「そんなの俺が聞きてぇよ。」
「もうずっとここに閉じ込められてるよね?」
「そうだな、多分朝からだから。」
「じゃーさ、俺たちずっとここにいなくちゃいけないのかな?」
「…………。」
「タイム?」
「わかるわけないだろ? 俺こそ聞きてぇよ。」
「タイム…。」
「ラスだけじゃないんだぞ? 不安なのは。俺だって…。」
「うみゃう!」
スノウが突然立ち上がった。
スノウの体に背中を預けていた二人はそのまま後ろに倒れてしまう。
「「うっわぁ!?」」
頭はぶつけなかったものの背中は少しだけぶつけてしまった。
慌てて起き上がりスノウが動いた先を見つめると光が見えた。
まるで森の出口を示すかのように光の道が見える。
「あれって……」
「出口だ!」
ラスの言葉を引き継ぐ形でタイムが言いながら立ちあがり光目掛けて走って行く。
ラスもタイムに続くようにその光に向かって走り始めた。
その光にだんだん近付くと不思議と心に安心感が生まれて来た。
「これでやっと出れるな、ラス。」
「うん。」
二人はだんだんと光に呑み込まれていく。
目の前が白い色に包まれていく。
白…。
一瞬、浮かんだ事。
何故か、ここで出会って一緒に行動するようになった『あいつ』。
「スノウ!?」
ラスは振り返った。
光に完全に呑み込まれる前にスノウの姿が浮かんだ。
タイムも隣で振り返っていた。
四つの瞳がスノウに注がれる。
スノウは光に近寄らずにそこに立っていた。
この森で出来た友達。
この森で出会ってこの森に残ろうとしている。
光はだんだんと強くなっていく。
タイムとラスを呑み込んで行く。
それにともなって光の彼方に消えて行くスノウ。
一際眩しく周りが光ると二人の意識は落ちて行った。
最後に見えたスノウは笑っている様に見えた…。

『---------。』

  Θ−Θ−Θ−Θ−Θ

二人が目を覚ますとそこは川の近くの木の下だった。
空は夕暮れ時で赤く染まっている。
二人がいる場所。
そこは朝に雨宿りをした木の下。
先ほどまでいたのはここでは無かった。
「これってどういうこと?」
ラスが辺りをキョロキョロと見回す。
「今まで俺たち、変な所にいたよね?」
タイムもつられてキョロキョロする。
見渡してもそこは色が違うぐらいで朝と変わらない風景。
「夢?」
二人は頭をひねらす。
不思議な体験をしたのは夢だったのか?
それでも、夢だと思えないリアルさがあった。
「スノウが……」
「えっ? タイム?」
「スノウが最後に何か言ってたよな?」
「うん。」
最後に別れ際に笑いながら何かを言った。
二人の目にはそう見えた。
「あれ、何て言ったんだろうな。」
「言葉なんかわかる訳ないよ。」
「そりゃ、そうだけどよ…」
スノウは言葉が喋れない。
でも、あの時は二人には何かを言ってる様に見えた。
スノウの心が何かを言った様に感じた。
闇が迫っている中で二人はスノウの事を考えながら家路に着いたのだった。

  Θ−Θ−Θ−Θ−Θ

「んっ……。あれ、俺、いつの間にか寝てたんだ。」
授業の終わった中庭でタイムは寝ていた。
良く晴れた空は綺麗なオレンジに染まっている。
「懐かしい夢、見たな…。スノウ……。」
空を見上げながらタイムは一度だけ会った友人に想いを馳せた。
「ラスも思い出してるかな…?」

時刻は夜中の二時。
部屋でそんな暗闇に包まれた部屋で目を覚ます。
「んっ……。ふう…。」
眠い目を擦りながらベランダに出る。
心地良い風が髪を撫でる。
「懐かしい夢だったな…。スノウ……。」
夜の星空を見上げながらラスもまた一度だけ会った友人に想いを馳せる。
「タイムも夢、見たかな…?」

幼い日に起こった出来事。
泡沫の夢。
幻の様でそうでなくて
現の様でそうでなくて。

今は離れている兄弟。
昔は一緒だった。
幼い日の泡沫の夢。
それをお互いが共有するほどに、
存在が離れていても心はいつも傍にある。

 『……離れても心は一緒に……』

【fin】

……後書きと言う名の言い訳……
作者の朔龍夜 銀輝(さたや ひかる)と申します。
この作品、タイムとラスの幼い頃を書きたかっただけなのですが…(汗)
すみません。可笑しいです。
意味不明になっていますね。
わかっているのですが手直しが出来ませんでした。
これは一応、幼い二人がが幻を見ている、その頃の夢を今の二人が見ている設定です。
判り辛い設定ですみません。
一応、これはこれで完成なのでお許し下さい。
では、短いですが、言い訳は終わりです……(逃)




朔龍夜銀輝様から頂きました、タイムとラスの昔話です。
遠く離れて違う場所で暮らしていても、共に居た記憶はそれぞれの胸の元に
何気ない瞬間に、ふと思い出すンだろうなぁ…と。(^-^)
素敵なSS作品をありがとうございました。

2004年5月6日 : 中原 良