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「SNOW 〜天使の導き〜」 作 : 朔龍夜銀輝 様 『天から舞い降りた 白い天使 瞳に映る光景に 魔法をかける 辺り一面を 銀世界に変える そして 二人の兄弟に贈り物をする 突然の再会という 奇跡の贈り物を…』 幼い頃に幻の中で出会った天使。 泡沫の夢でも二人の記憶にはしっかりと残っている。 忘れもしない、あの言葉。 彼等は天使の願いを聞き入れた。 そして、再会を果たす…。 『……離れても心は一緒に……』 †∞†∞†∞†∞†∞† 闇の中でキラキラと輝きを放つ夜の街。 小高い丘にある公園からはその光景が綺麗に見る事が出来る。 さらに空にはたくさんの星が瞬いている。 街と空が一体となって宝石箱の様に光を響かせている。 その公園からの景色を二人の人物が見渡していた。 「うわぁ〜。綺麗ー。」 柵から身を乗り出す様に綺麗な輝きに見入っている女性・コーラル。 「おい、あんまり身を乗り出すと落ちるぞ!」 その人物を宥める青年・タイム。 コーラルがタイムを連れてこちらに戻って来てから初めての冬を迎えようとしている。 最初は戸惑っていたタイムも今ではだいぶ慣れ、一人で街を歩ける様になっていた。 その歩き回っている時に見つけたのがこの場所だ。 あまりにも綺麗だった為にコーラルにも見せたいと思い彼女を誘いここに来た。 「タイム、よくこんな所知ってたね!」 いまだに身を乗り出すように街を見渡している彼女を気にしながらも、タイムは目の前の光景を見ていた。 暗闇に浮かび上がる光の洪水。 街も空も区別が無く存在する。 その光は自分の故郷と違う様で似ていた。 今は遠く離れてしまっている自分の故郷・魔法都市ダリル。 そこでも空では星が光を発していた。 空を眺めながらタイムは思い出す。 同じ様な空の下にいるであろう自分の半身。 詳しい事を話した訳でも無いのに自分の事を解ってくれていた幼き者。 時空を越えた向こうにいる大切な血を分けた二人の事を……。 この空と似た、でも違う空の下で、もしかしたら見上げているかもしれないと思っていた。 「あっ……。」 彼方へと旅をしていたタイムの耳にコーラルの呟きが入る。 彼女へと視線を移せば真上を見ている。 それにつられる様にタイムも上を見上げる。 「えっ……?」 白くて綺麗な物体が静かに舞い降りて来る。 星が光っているとはいえ夜の暗い中でゆっくりと落ちて来る。 昔、母に何度か聞いた事があるあの白いモノ。 タイムは言葉を失くしていた。 あまりにも綺麗で神秘的なそれに暫く見入っていた…。 †∞†∞†∞†∞†∞† キラキラと反射する透き通る様な青さを持つ水面。 どこまでも広大で気高い晴れ晴れとした青い空。 木々の葉が風に揺られてザワザワと音を響かせる。 河原の近くの木の根元に一人の青年が腰掛けていた。 遠くを見る様な眼差しで空を見上げている。 その青年に背後から近付く影があった。 とても小さな影。 影は青年に近付くとそのまま腕の中に納まった。 「ずっとここにいたの?」 青年の腕の中で顔を見上げる影。 青年はそっとその小さな影を抱き締める。 慈しむ様に。 宝物を扱う様に。 「ねぇ? ずっとここにいたの? ………ちゃ…」 小さい影の最後の言葉は風によって遮られあまり聞き取る事は出来なかった。 それでも青年にははっきりと聞こえた。 鈴の様な可愛らしい高い声が。 「うん。ここにいたよ。朝からずっとね。」 小さい影の碧の瞳を覗き込みながら青年は答える。 太陽は真上に昇っている。 眩しい程の光が青年と小さい影を包み込んでいる。 ゆっくりとした時間の流れを感じる中で小さい影は青年の服をギュッと握った。 華奢な手で力一杯握っている。 どこにこれほどの力があるのか。 それを思わせる程の力。 何かに耐える様に手に力を入れ小刻みに震える体を諌めようとしている。 「アイリーン?」 青年は先ほどより抱き締める腕の力を強めた。 少女を何か見えないモノから守る様に。 「ラスお兄ちゃん……」 小さい影・アイリーンの瞳からは涙が溢れていた。 透き通った雫が後から後から少女の瞳から零れ落ちていく。 「どうした?」 一緒に住んでいない父親が違う妹。 自分の半身が一緒に住んでいて何度か会った事はあった。 でも、最近は、ここに来てからは、何度かこの場所で会っていた。 最初は妹だと解らなかった。 でも、アイリーンは自分の事を兄だとわかったようだった。 タイムが話していたのかどうかは解らない。 それでも、アイリーンにはわかっていたのだ。 自分のもう一人の兄の事を。 今日は来るかどうか解らなかった。 でも、ここにいればアイリーンが来た時は会えるからここにいた。 いつも明るくにこやかに笑っていたアイリーンの瞳が随分前から寂しげに見えたから。 青年・ラスは心配で気付くとここにいた。 「どうしたんだ?」 もう一度優しく話しかけるラス。 アイリーンの柔らかい髪を優しく撫でる。 その仕草に安心したのか少しだけ落ち着きながら少女は話し出す。 ポツリポツリと。 今まで抱えていた不安な心を。 「タイムお兄ちゃんがいなくなったの…。」 少女の言葉に合わせる様に森が騒ぎ出す。 特に強い風は吹いていなかったのにその時だけは突風と呼べる強さが吹いた。 ラスとアイリーンの髪が風で遊ばれる。 ラスの思考は一瞬停止した。 タイムがいなくなった? あれだけ妹を大事に思っていたタイムがいなくなった? アイリーンの言葉にラスは困惑する。 そんなラスの心がわかるのかアイリーンは続ける。 「違うの。タイムお兄ちゃんは自分の意思で行ったの…。遠い所へ。」 涙を溜めた瞳のままアイリーンはラスの瞳を捉える。 小さい少女なのにその瞳は強さを宿している。 タイムと同じ碧の瞳。 見つめていると吸い込まれてしまう様なとても深い色をしている碧。 風属性を持っている証の様な碧…。 「タイムお兄ちゃんに聞かれたの。『俺が居なくなっても平気か』って。だから『うん、全然平気』って答えたの。『それでお兄ちゃんが幸せになれるなら』って。」 目元に溜まっている涙を拭いながらアイリーンは言葉を紡ぐ。 「わたしね、知ってたの。タイムお兄ちゃんが何かを悩んでるって。この都市から遠く離れた所に行きたかった事。魔法が嫌いな事。私の為に自分のしたい事を我慢してる事。だから『お兄ちゃんの信じる道を進んで行って』ってお願いしたの。お兄ちゃんに幸せになって欲しかったから。」 また目尻に涙が盛り上がって来る。 アイリーンは兄のいなくなる事に不安を感じなかったわけではない。 むしろ、寂しくて悲しかった。 それでも、兄の幸せを願い自分の感情を押し殺した。 こんな幼い少女の何処にこれほどの強さが隠れているのだろう。 ラスは何も言えなかった。 言う事が出来なかった。 アイリーンの言葉に耳を傾けるしか出来なかった。 黙ったままのラスをそのままにアイリーンは続きを話し出す。 「集中教育で来てた女の人。タイムお兄ちゃんはその人と異世界へ行くって言ってた。もう戻れないかもしれないって。だから、今日でお別れになるからって。」 集中教育……。 ラスは彼女を思い出した。 集中教育の中で唯一の女性だった彼女・コーラル。 自分が今、指に嵌めているタリスマンと同じ属性を持っている異世界の人。 「ラスお兄ちゃん。」 今は泣き止んだ碧の瞳がラスの瞳を捉える。 さっきまで自分の腕の中で震えて泣いていた儚い少女。 今は先程から見え隠れしていた強い色を宿している。 「話を聞いてくれてありがとう。わたしはもう大丈夫。だからラスお兄ちゃんも行くべき場所に行って?」 アイリーンはそう言うとラスの腕の中から立ち上がる。 「お兄ちゃんの居場所はここじゃないってわかってる。わたしの為に留まっていてくれた事も。でも、もう大丈夫だから。」 アイリーンはそう言ってラスの前から駆け出した。 向かう先は学院の方向。 「元気でね! タイムお兄ちゃんに宜しくね!!」 少女は木の影に隠れて見えなくなってしまう。 ラスはアイリーンが消えた先を暫く眺めていた。 何故、タイムに宜しくと言ったのかは本来ならば不思議に思うのに今のラスにはそう思えなかった。 ただアイリーンの強さと優しさに救われた自分がいた。 そして、ラスは一瞬の間をおいてその場から姿を消したのだった…。 †∞†∞†∞†∞†∞† 夜景を見ていた二人は公園にある屋根のついた休憩所にいた。 本当は帰ろうと思っていたが、お互いにその場を離れるのを嫌がった。 先ほど見ていた景色は空から降りてくる天使によって銀世界に塗り変えられていく。 「綺麗だね…。」 雪が降り出してからは黙ったままだった二人の均衡を破ったのはコーラルだった。 独り言の様にポツリと呟いた。 タイムは時間が経った事等忘れていてコーラルの一言で現実に引き戻される形になった。 「俺、雪って初めて見たぜ…。」 タイムも独り言の様に呟く。 「そっか…。」 コーラルも頷くだけで返事にする。 しとしとと音も無く降る雪。 周りにある音を消しそうな程静かに降り積もって行く。 闇に輝く光と雪の白さが混じって神秘的な景色が広がって行く。 『天から舞い降りた 白い天使 毎日の風景を 白に塗り変える 昼間の灰色も 夜の漆黒も 神秘的な世界に 飾り立てる〜♪』 突然、コーラルの口から漏れた綺麗な歌。 タイムは急な事にコーラルに問い掛ける。 「その歌、何だよ。」 「んっ? 雪をテーマにした歌だよ。何かで聞いた事があるんだけどふっと思い出したから。」 先ほどまでは黙っていたのに今度はいきなり歌い出したからものだから、タイムはついていけなかった。 しかし、コーラルの歌う詞に聞き入っていた。 雪は暖かなダリルには存在しなかった。 タイムが小さい頃住んでいた所でも降らなかった。 だから、話だけを聞いていた。 昔は家族皆、仲が良かった頃、ラスと共に良く雪の話を母親にせがんでいた。 白くて綺麗で神秘的で。 同じ話をされているだけなのに不思議と飽きる事はなかった。 もしかしたら、それは「あいつ」のせいもあったのかもしれないが…。 「スノウ……か…。」 「タイム?」 タイムの呟きを聞いて歌うのを中断するコーラル。 何を言ったのかコーラルには聞き取れなかった。 「なんて言ったの?」 心地良く聞こえていたコーラルの歌声が途切れてタイムは懇願した。 「何も言ってないって。それより、さっきの続き歌ってくれよ。聞きてぇから。」 タイムの言った事も気になったがコーラルは歌うのを再開する。 美しい響きが降ってくる雪と同調し合って美麗な音楽が生まれる。 静かで厳かな雪の旋律。 儚くて澄んだ珊瑚の歌声。 それぞれがお互いを高め合い幻想的な和音が繰り広げられる。 『天から舞い降りた 白い天使 瞳に映る光景に 魔法をかける 辺り一面を 銀世界に変える そして 二人の兄弟に贈り物をする 突然の再会という 奇跡の贈り物を…』 最後のフレーズを歌い終わると珊瑚と雪の音楽会は幕を閉じた。 タイムは無意識の内に拍手をしてしまう。 パチパチと乾いた手の音が辺りに木霊する。 一人だけの拍手は目立つのだが、その拍手は不思議な事に途中から二重に聞こえた。 二倍になった音に驚くタイムとコーラル。 雪が降り積もる中を良く見ると人影が見える。 雪が舞う中で静かに立っている。 その人影は降り積もった雪を踏み締めながらこちらに近付いて来る。 少しずつ少しずつ。 タイムもコーラルもその人物に視線を送ったまま動く事が出来ない。 そして、口を開いたのは二人の人物だった。 「タイム。」 「ラス……。」 お互いの名前をお互いが同時に発する。 タイムは夢か幻でも見ているのではないかと思った。 目の前にいる人物が信じられない。 遠く離れた異世界にいる筈の自分の半身。 自分がここに来ている事など知らない筈だ。 それでも、ラスはそこにいた。 前会った時と変わらない姿で、そこに立っていた。 タイムは引き寄せられる様に歩き出す。 ラスもタイムへと歩く。 お互いが目の前に来た時に漸くタイムは確信が持てた。 幻でも夢でもない。 ラスは確かにここにいる。 自分の目の前にいる。 それを認識してタイムはラスの腕を取った。 暖かい血の通った手の温もり。 ラスの存在が確かにある証拠。 「ラスが何で……?」 確信が持てても、いや持てたからこそ当然気になる問いを返す。 「これのお陰。」 ラスは指に光るタリスマンを見せる。 当然タイムもタリスマンの事は知っている。 それでも、ラスがここに来れた理由にはならない。 「知ってたから。」 不意にラスが言葉を紡ぐ。 ラスは目の前のタイムから未だに放心しているコーラルに視線を移す。 彼女の魔法属性。 この世界で聞いた彼女の噂。 そして、自分がここに住んでいる事。 ラスはそれを一つずつタイムに話していく。 ラスは今度はタイムの瞳を捉える。 アイリーンと同じ碧の瞳。 その瞳を見てラスはアイリーンの事を話し出す。 自分がアイリーンに聞いた事の全てを。 タイムは黙ってそれらを聞いていた。 話しを聞き終えるとタイムはゆっくりと休憩所のベンチに座り込む。 「そっか……。アイリーンが……。」 ラスもタイムの向かいに座る。 コーラルは途中からラスの話を聞いていて二人の関係は理解していた。 空からは未だに雪が降り続いている。 白い白い雪が静かに、ただ静かに舞い降りてくる。 タイムもラスもコーラルも落ちてくる雪を見ている。 白い雪。 二人の脳裏に大切な『友人』の姿が浮かぶ。 幼い頃に一度だけ出会った、大切な『友人』。 白い毛並みを持った、泡沫の夢の『友人』。 「「スノウ……。」」 二人は同時に『友人』の名を口に出す。 この雪を見ていると二人はスノウが巡り逢わせてくれた様に感じる。 未だに空からは雪がちらちらと降ってくる。 「コーラル、もう一度歌ってくれねぇか? 最後の部分を。」 コーラルはタイムの一言だけでどのフレーズを歌えばいいか解った。 そして、また歌い出す。 『天から舞い降りた 白い天使 瞳に映る光景に 魔法をかける 辺り一面を 銀世界に変える そして 二人の兄弟に贈り物をする 突然の再会という 奇跡の贈り物を…』 コーラルにはスノウの事はわからない。 それでも、二人の再会はこの歌に似ていると思った。 「天使の導き」という題のこの歌に。 『スノウ』がくれた贈り物なのだと思えた。 コーラルの歌を聴きながら二人は舞い落ちてくる雪を見上げる。 その雪を見上げながらスノウを思い浮かべるとスノウの言葉が聞こえてくるようだ。 『……離れても心は一緒に……』 どんなに離れていても心はずっと共にある。 スノウの心も共にある。 降ってくる雪はスノウの心。 スノウの言葉は二人に届いている。 そして、これからもずっと届き続ける。 雪が降る度に。 何度でも。 天から舞い降りた白い天使。 泡沫の夢で出会った白い天使。 「天使の導き」で二人は再会を果たした。 「奇跡の贈り物」で二人はまた巡り逢えた…。 ...fin |
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朔龍夜銀輝様から頂きました、タイムとラスのお話です。 このSSは前作「タイムとラスの大冒険物語『幼い日の泡沫の夢』」とリンクしているとの事で タイムとのエンディング後、元の世界へ戻った後の兄弟の再会 「雪」が巡り合わせた二人の兄弟。とても素敵なお話だなぁと思いました。(^-^) 素敵なSS作品をありがとうございました。 2004年5月15日 : 中原 良 |