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「すべてを超えるもの」 作 : 道行マリル 様 コーラルが体調を崩した。 いや、その前兆が無かったわけではない。 この頃、朝起きるのが辛そうだったし、食欲不振や体重の増減が激しかったらしい。 そして、今朝中々寝室から出てこないコーラルを起こしに向かったら、彼女はベッドの中で苦しそうにしていた。 「コーラル!?」 「ん・・・アトル・・・」 慌てて駆け寄りその額に手を当てると、かなりの熱さだった。 手で触れるだけでこれだけの熱があるのだから、正確に測ったらどれくらいの物だろう。 「ごめん・・・どうしても起きられなくて」 「無理してしゃべらなくていいよ」 私はそう、申し訳なさそうな彼女の目を見つめて言った。 そこに新たにかかる声。 「マスター」 スカイだ。私の魔法人形のスカイがドアのところに立っていた。 「・・・その様子だと、今日は行けそうに無いな」 「ん・・・」 「当たり前だよ。今日は休ませる」 「・・・そうか。で・・・マスターは?」 「私がどうかしたのかな?」 「もう時間が迫っているんだが」 「・・・彼女を放置して、研究所に向かえと言うのかな?」 私は後ろを振り返らずに、そう言った。 「アトル・・・いいよ、寝てればよくなると思うし・・・」 「コーラル、自分の体の状態を認識しなさい。スカイ、今日は私も休ませて貰うよ。彼女の看病をしないと」 「・・・いいのか?」 「・・・彼女がこうなったのは、私のせいだしね」 私はそう、わずかに、ほんのわずかにうつむいて、答えた。 その答えを受けて、スカイが口を開いた。 「・・・そうか。わかった。そう伝えておく」 「ああ、頼むよ。いってらっしゃい」 私がそういうと、スカイは少し急ぎ足でその場を去っていった。 まもなく、玄関の扉が開き、そしてすぐにしまる音がした。 「・・・さて。医者を呼ばないとね。私は医療の道には詳しくないし。」 「え・・・でも・・・」 「その状態じゃ、起きるのすらつらそうじゃないか。」 「・・・」 「少し待っていなさい、すぐ連絡をとってあげるから」 「うん・・・」 私は一度、コーラルに背を向け、部屋を出て、すぐに医者に連絡をとった。 幸い、医者はそれほど忙しくなかったらしく、まもなく家に駆けつけてくれた。 医者の診断はそれほど時間のかからず終わった。 医者の話によると、過度のストレスからくるものらしい。 大方説明を聞き、薬を貰い、その分の料金を払うと、医者はまた次の場所に向かった。 私は医者を玄関まで送った後、軽い食事を作りコーラルのところに戻った。 「コーラル、食事はできそうかな。」 「・・・量は食べられそうに無いけど」 「無理しなくて平気だよ。少しでも食べないと薬を飲んだときに、胃によくないからね」 「うん・・・」 彼女は普段の半分程度しか食べられなかったが、なんとか食事をすませ、薬を飲んだ。 「大丈夫かい?」 「うん・・・平気・・・」 「そうか。それじゃあ、これを片付けてくるから・・・」 そう言って、皿を持って部屋を出て行こうとすると、 クンッ 軽く服を引っ張られた。 「・・・コーラル?」 私は後ろを振り向くと、コーラルが服の一部を持っていた。 「あ・・・ごめん・・・でも・・・今は、傍にいて欲しい」 「・・・」 「ごめん・・・」 今にも泣き出しそうなコーラルが、しかしその服を握る弱弱しい手を離さずに言った。 それを振り払えるほど、私は彼女に冷たくできない。 「いいよ、君が望むなら、傍にいよう。」 「ごめんね・・・」 「謝らなくていいよ。お嬢さん」 そういって、彼女の服を握る手を自らの手でやさしく握った。 ベッドの傍に椅子を持っていき、私は彼女の傍に座った。 「・・・コーラル、眠いかい?」 「ううん・・・今は寝られそうにない」 「そうか・・・じゃあ、聞いていいかな?答えるのが無理だったら、答えなくてもいいよ」 そういって、私は一度、彼女から目をそらし、そしてまた彼女に向けた。 「なぜ、今まで黙っていたのかな?」 「・・・」 「薄々気がついていたよ。君の体調が思わしくなかったこと。 ただ、私からは何も言わなかったけれど。君がいつ、言うかと思ってね。 でも、君はこんなになるまで何も言わなかった。そして、こんなになっても、君はやせ我慢している」 そこで私は一度、言葉をきって、続けた。 「君は、私を信用していないのかな?」 言ってしまってから、しまったと思った。 体調を崩している人というのは、大体精神的に不安定だ。 そんなことを言えば、彼女を傷つけてしまうことぐらい、目に見えていたのに。 案の定、彼女は今にも泣き出しそうになっていた。 「すまない、言い過ぎたね」 「違う・・・アトルは悪くない」 コーラルは必死で、口を開いた。 「アトルは悪くないよ。私・・・迷惑かけたくなかったの。 ちょっと体調が悪いからって、甘えたくなかったの。嫌われたくなかったから・・・」 「・・・そうだね、それが君・・・だね」 私は彼女の髪を軽くなでてやると、コーラルはその目から静かに光を落とした。 それを優しく指でぬぐってやりながら、私は続けた。 「君は、私は悪くないといった。でも、私は、・・・君がこんなになってしまったのは私のせいだと思っている。」 「なんで・・・」 「医者は過度のストレスが原因で、こうなったと言っていた。 では、そのストレスの原因は何処にある?何故、君がここまでストレスをためてしまったか?」 「・・・」 「ストレスというのはあらゆる面で生まれるもの。 特に新しい土地、生活、人間関係・・・そういったものに悩むときに生まれやすいからね。 君は、ここの慣れない生活でストレスを溜めてしまった。そして、君がここで生活する理由になったもの」 私はそこで一旦、彼女から目をそらした。そして、続けた。 「・・・私の我侭な言葉。私の自分勝手の言葉が原因だ」 「違・・・」 「違わないだろう?・・・私は君から沢山のものを与えられた。それなのに、私が君に与えた物といえば・・・こんな・・・」 「違う!」 コーラルは無理して起き上がり、私にしがみついた。 「違う・・・私は、私は確かにここの生活に中々慣れられなくて・・・ストレスだったかもしれない。 でも・・・でも! 私は・・・自分の選択に後悔は無いよ。ここに残るって・・・決めた自分の選択に後悔はない。 それで、ここでの生活の不慣れだって、覚悟してた。」 私はコーラルの頭をなでた。 「わかった・・・コーラル。いいから横に・・・」 「いや!最後まで言わせてよ・・・」 「コーラル・・・」 「私は・・・アトルの笑顔が好き。アトルの優しさが好き。 だから・・・だから、少し、体調が悪いぐらいで、愚痴をこぼして、アトルの笑顔を奪いたくなかったの。 ストレスだって・・・アトルのその笑顔が、あったから・・・」 そこまでいって、コーラルは激しく咳きこんだ。 「げほっごほ・・・」 「・・・コーラル、ありがとう。君の気持ちは伝わったよ。」 「アトル・・・」 「ただね、コーラル」 私は背中を落ち着かせるようになでながら、話を始めた。 「もっと、私を頼っていいのだよ」 「アトル・・・」 「君は優しい子だから、中々頼れない、甘えないって思ってたんだね? でも、どんな人間・・・いや、心を持つ物すべてが、弱いところがある。 すべて、抱え込もうとしても、その結果、崩壊してしまうことだって、珍しくない。」 「うん・・・」 「君は、今まで甘えることのできなかった私を甘えさせてくれた。 だから、君も、もっと私に甘えてほしい。もっと、私の力を求めて欲しい」 「アトル・・・」 「わかったかな?」 「うん・・・わかった」 「ふふ・・・理解のいい子は好きだよ、お嬢さん」 そういって、軽く頬にキスをした。 熱のせいもあるだろうが、それ以上に真っ赤になっているコーラルを見ると、本当にいとしくて仕方がなくなってくる。 「じゃあ・・・私の願い、聞いてくれる?」 「何かな?私にできることならなんでも聞くよ。」 「・・・」 「どうしたのかな?」 「・・・病気・・・治るまで・・・ずっと傍にいて・・・」 「ふふ、そんなのは簡単のこと。喜んで聞き入れましょう、私のお姫様」 「・・・///」 また真っ赤になっている彼女をそっと寝かせながら、私はいった。 「そろそろ寝なさい、コーラル。病に一番いいのは睡眠だからね。」 「うん・・・傍に、いてくれる?」 「心配性だね・・・いるよ、ずっと」 「ありがとう・・・」 まもなく、コーラルは眠った。 私はその寝顔を眺めながら思った。 私にできること・・・ってなんだろうかと 私は大きな魔力を持っている。この魔力は、そこらへんを歩いている人には負けない自信がある。 ここが魔法としだとしても、ここまで魔力を持っている人はそう少ないだろうと。 しかし、この闇の力は大半が傷つけるもののように感じられる。 少なくとも、私はそう感じているし、街行く人もそう感じている人が多いだろう。 そんな私が、彼女のために何ができるだろう。 彼女に、何を与えてやることができるだろう。 ・・・魔法なんか、関係なのかもしれない。 彼女に与えてやれる物、それはきっと、もっと違うところにあるのだろう。 彼女がこの街に始めて訪れたとき、彼女の魔法スキルは高いとは言えなかった。 しかし、彼女は私に、かけがえの無い物を沢山くれた。 だから、魔法なんて関係無しに、私にできることを探せるかもしれない。 彼女が求めるものを、私は与えられるのかもしれない。 数日後、彼女の体調はよくなった。 食欲もかなり戻ったようだ。 「もう学院に行けるかな?」 「もちろん!もう全然平気だよ!」 「やれやれ・・・若さかな、この治りのよさは。数日前とは大違いだ」 「何おじいさんみたいなこといってるのよ、アトル・・・」 「そうだ、マスター・・・貴方はまだ27歳・・・十分若いと思うのだが」 「ほらー、スカイもこう言ってるよー」 「27歳といったら、あと3年で十の桁が3になるんだけどねぇ」 「・・・アトルー」 私の発言に、コーラルが頬を膨らましていた。 まったく、本当に可愛いお嬢さんだ。 「それにしても・・・本当に体調がよくなったな」 「うん!アトルのおかげだよ!」 「私は何もしていないよ」 「傍にいてくれたもん!」 「傍にいただけだよ」 「それだけで、すごく嬉しかった。暖かかったよ。ありがとう」 「ふふ・・・どういたしまして、お嬢さん」 「朝から仲がいいのはいいが・・・」 スカイがさらりと水をさした。 「スカイ・・・」 「マスター、コーラル、時間だ」 「え、あー!もうこんな時間!急ごう、アトル!」 「そうだね、きっと休んでいた分の研究がたまっているし」 「あー・・・数日は徹夜かなぁ・・・」 「無理はしないようにね、お嬢さん」 「アトルもね」 「ふふ、気遣いありがとう。」 そういって、軽く口付けすると、また真っ赤になった。 少しずつ、少しずつ、できることを探そう。 すべてを与えるもの。 すべてを超えるもの。 それは・・・ 私の心の中にあるのだから。 |
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『Talisman』サイトの100000ヒット記念に道行マリル様から頂きました、コーラルとアトルのお話です。 慣れない環境に体調を壊したコーラル。 毎日いろんなことが起こりながらも、 アトルのダリルエンド後、ダリルに残ったコーラルは きっとこんな風に生活しているんだろうなぁと、思いました。 素敵なSS作品をありがとうございました。 2005年8月30日 : 中原 良 |