* 「翼をください」 作 : 道行マリル 様


その日、コーラルはひどく落ち込んで帰ってきた。
「・・・ただいま」
「おかえり・・・どうした?」
「ちょっと・・・ね」
私の質問に答えをにごらす。
「何があった?」
よく笑うのがコーラルなのに。
「ううん・・・なんでもない。・・・ごめん、一人にしてくれる・・・?」
「・・・夕飯、できてるが・・・?」
「・・・いらない・・・」
「コー・・・」
バタン・・・
私の台詞を最後まで聞かずにコーラルは部屋にこもってしまった。
コーラルの去った部屋の扉を見つめる。
気になってしょうがない。
しかし、無理やり聞き出すわけにもいかない。
「・・・もどかしい」
こんな感情、今までなかったのに・・・
コーラルがあれでは私の気までおかしくなりそうだ。
コーラルが落ち着くまで、本でも読もうかと本棚に向かう。
私はこの世界に来てから、コーラルの持つ本を色々読み漁っていた。
この世界を少しでも知るために・・・
本棚から適当に一冊引き抜くと。
パサツ
隣にあった本が一緒に落ちてしまった。
その本は開いた状態で床に落ちた。
表紙が上を向いている。
その本には
『音楽 T』
というタイトルが書いてあった。
その本を拾い上げる。
落ちたから拾い上げてもとの場所に戻そうとしただけだったが。

「・・・」
私はその開いたページに目が釘付けになった。
私はこの世界の楽譜がまだ読めない。
だが、文字は読める。
その文字・・・詩の方に目が行った。
「・・・これは・・・」
私が口に出して、詠みかけたとき・・・
バタッ・・・
扉が開く音がして、反射的に顔を上げる。
「コーラル・・・」
そこにはコーラルが立っていた。
「スカイ・・・」
「コーラル・・・どうし・・・!?」
次の瞬間、コーラルは私の胸にコーラルが飛び込んでいた。
「どっ・・・どうした!?」
「スカイ〜どうしよう・・・どうすれば・・・っ」
コーラルは私の胸に顔を埋めながら言ってきた。
声がかすれてる・・・泣いている?
「コーラル、ちゃんと説明してみろ」
「うん・・・あのね・・・今日、友達と喧嘩しちゃったの・・・小学校からの大親友だったんだけど、ちょっとした意見の違いが・・・大喧嘩になっちゃってっ・・・絶交だって言われてっ・・・」
「・・・」
私は口を挟まない。彼女の話が終わるまで。
「最初は・・・頭に血が上ってて当たり前みたいになってて・・・だけど、しばらく歩いて落ち着いたら・・・言い過ぎたなってっ・・・あやまりたいって・・・絶交なんて絶対やだって思って・・・だけど・・・もうっ・・・」
私の服をつかんで泣きじゃくるコーラル。
感情の凹凸が激しい。だから苦しむ。だから悲しむ。
最初はそれに正直になることに意味はないと思っていた。
魔法人形(マジックドール)である限り、それは邪魔なだけだと。
だけど、それが、彼女にあって・・・変わった・・・
そして・・・
「コーラル・・・自分の気持ちはどうなんだ?その友達と仲直りしたいのか?」
「うんっ・・・」
「だったら・・・その気持ちを押し殺すべきではないだろう・・・その感情を押し殺せば、いずれ、後悔することになる・・・」
「・・・」
「向こうも同じ気持ちを持っている可能性がある・・・だったら、お前の気持ちを、しっかり言うべきだと、私は思うが?
意見の違いなんて、違う人間なら当然もつことだろう・・・感情的になることだってあるはずだ、人間ならな・・・だが、それがあるからこそ、仲が良くなる・・・そうだろう?」
「うん・・・」
「・・・正直に言えばいい。もし、一人で行くことができないというなら、私が手伝ってやってもいい・・・お前のための足場を作るくらいなら、やってみせよう・・・」
「スカイ・・・ありがとう。」
そういってコーラルは顔を上げた。涙で頬がぬれている。
「気にするな・・・それに、それを私に教えたのはお前だ。」
「そうだっけね・・・」
そういってコーラルは
「明日また、その子にあって謝るよ・・・正直に・・・一人で大丈夫だから!」
「そうか・・・」
「スカイ・・・本当に、ありがとう・・・」
そういって、私に抱きつくコーラル。
私はただ、黙って抱き返した・・・

* * *

翌日。
「ただいま!」
打って変わって元気に帰ってきた。
本当に感情のわかりやすい奴だ・・・
「スカイ、仲直りできたよ!」
「そうか・・・よかったな」
コーラルが喜ぶと、私も嬉しい。
何でだろうな。好きだからだろうな・・・
「ね、お礼になんかしてあげるっ」
「お礼なんて・・・」
「いいの!スカイのおかげで言い出す勇気が出たんだから!」
ねっ、というコーラル。
やれやれ・・・ここまでいうのだからなんか言わないと・・・な
・・・そういえば。
「コーラル。教えてほしい歌があるんだが・・・」
「歌?どの歌?」
私は本棚に向かい、昨日の『音楽 T』の教科書を取り出す。
「あ、それ中学校の時の音楽の教科書!」
「教科書なのか・・・」
「今は使ってないけどね」
そういうコーラルの前で、昨日私が釘付けになったページを開く。
「・・・この歌だ」
「えっと・・・『翼をください』?いい歌だよね〜、どうやって見つけたの?」
「偶然だ」
「ふ〜ん、あ、教えてほしいんだったよね。」
ああ、と答える私に
「いいよ、歌ってあげる。」
そういって歌いだした。


--------------…。


美しい歌声だった。
きれいですんでいて。
「・・・どうだった?」
「すばらしかった」
「本当に?」
「本当だ」
そう答えて、私は再び詩に目をやり、コーラルに視線を戻す。
「コーラル。」
「何?スカイ」
「お前は・・・翼がほしいと思ったことはないか?この歌にあるように、翼を使い大空に羽ばたいてゆきたいと・・・悲しみから開放されたいと思ったことはないか?」
「翼?そうだな・・・ほしいとは思うよ。でも、現実的に考えると、無理かなって思っちゃうんだよね・・・」
そういって外を見るコーラル。鳥が羽ばたいている。
「実際に飛べるわけではないが・・・」
「?」
「私は『翼』だ。」
「へ?」
コーラルの目が点になっている。
「私はアトラックによって作られたといったな・・・そのベースが・・・アトラックの翼だ・・・」
「アトルの翼・・・?アトルって翼があったの!?」
「ああ。白い翼だ。アトラックの魔法の属性が闇だったため、私の魔法属性は光と闇の混合になったんだが・・・」
「そうなんだ・・・」
「私の名前・・・スカイは『SKY』ではなく『SKYE』だ。これは『空』ではなく『翼』を表す・・・」
「へぇ・・・空だと思ってた・・・」
「まあ、そう思うだろうな・・・まあ、それはともかく・・・コーラル」
「?」
「お前が望むなら・・・私はお前の翼になろう。お前のために、お前が少しでも悲しまないように・・・」
「スカイ・・・」
「私の魔力の大半は・・・そのタリスマンになった」
そういう私の台詞に、コーラルは自分の指を見た。
私が自分の魔力をそそいで作ったタリスマンを。
「そのタリスマンと・・・私自身が・・・お前の進む道のための翼になろう。さっきも行ったとおり、実際に飛べるわけではない。
しかし、お前が行き詰った時、立ち止まった時・・・力になるだけのことはできるはずだ。お前を少しでも、悲しみから解放するためにな・・・」
まさに昨日の出来事のように。
「スカイ・・・ありがとう・・・私・・・すごく嬉しい」
「私はお前を愛している。お前のためになれるなら・・・私は何でも犠牲にできる」
「私も・・・スカイを愛してるよ・・・」
翼なんて、本当に背中になくてもいい。
実際に空を飛べなくてもいい。
人間は感情がある限り、何度も悲しむだろう。
そして、そこから抜け出すためには力が必要だ。
それは物理的な力ではない。
精神的な面での力。
そこから飛び出すための・・・翼。
その悲しみから逃れるための・・・翼。
その翼に・・・わたしはなろう。
たった一人の・・・愛しい・・・お前のために。

〜Fin〜


Written by Doukou-Maril
2004年3月29日



道行マリル様から頂きました、スカイとコーラルのその後です。
ダリルEDでのみスカイがコーラルに言うことになっている名前の意味を
タリスマンEDでは、知らないままではなく、とても素敵な形でコーラルに伝えてくださいました(^-^)
素敵なSS作品をありがとうございました。

2004年4月2日 : 中原 良