* 「Walk with Power of WIND」 作 : 道行マリル 様


「・・・εγτξαπьхсби・・・っ」
パキィンと鈍い音がした後、風の刃が右頬をかする。
わずかな痛みが、右頬を走った。
手に出ていた魔方陣は消えている。
「・・・また間違えたのか」
数メートル離れたところにいた私は、呟いた。
「何度同じところで間違えれば気が済むんだ・・・」
「うるせえな・・・難しいんだよ。」
俺は思わず反抗。
「ってぇ・・・」
タイムが自分の右頬に手を当てている。
そこからはわずかなが血が出ていた。
「・・・もうやめるのか?」
「やめねぇよ!これぐらいのかすり傷、なんでもねぇ!!」
「・・・そうか。じゃあ、もう一回やってみろ」
「・・・ああ」
そういってまた呪文の詠唱を始めるタイム。

今タイムは日が沈みかけ、赤く染まった空の下、誰もいない草原で・・・
魔法の練習をしていた。
「もう少し高度な魔法を使えるようになっておいたほうがいい・・・誰かを守りたいと心のそこから思うのならな・・・」
そう私が言ったのが、今魔法を練習している故。
タイムもそれは思っていたようだ。
なんていっても、タイムは魔法が嫌いで嫌いで仕方がなかったから、使える魔法の幅がすごく狭い。
本当に初級の魔法しか使えないのだ。
だが、誰かがもし、本気で魔法で攻撃を仕掛けてきた時、今の力じゃ防げないだろう。
その狙われる対象が彼自身ならそんなことどうでもいいのだが・・・

「・・・εγτξαπьхсбйжхчесяψσβ・・・っ」
バキッ
今度の風の刃は何とかぎりぎり交わすタイム。
「・・・またか・・・まあ、さっきから躓いていた場所は通ったからまだいいが・・・」
「・・・」
また失敗・・・今日何度目の失敗になるんだろうか・・・
この魔法は数日前から授業が終わった後、タイムは私の付き添いのもと、何度も練習していた。
ところがなんどやってもうまくいかない。
「・・・なあ、スカイ」
「なんだ?」
「本当に・・・俺、この魔法・・・使えるようになるのかな・・・」
今回、タイムが練習しているのは少々レベルが高く、呪文も長く複雑。
タイムがさっきから失敗しているのはそれが原因だ。
だが、そのタイムの質問を。
「その歳でその程度の魔法を未だに使えないのがおかしい」
私は軽く蹴る。
「・・・」
「タイム」
「なんだ?」
「確かにここ数日、失敗続きだが・・・お前はこのレベルの魔法に始めて挑戦するなら仕方がないことだ。誰もが通る道だ。お前はそれを始めるのが遅かっただけだ。だが、だからといって自信無さげにやっては、成功するものも成功しない」
「・・・そういうもんか・・・?」
「そういうものだ。お前は・・・あいつが好きなんだろう?」
「ああ」
「あいつを守りたいんだろう?」
「ああ」
「だったら、そのことを呪文の詠唱中も心にしっかり置いておけ。詠唱にいっぱいいっぱいなのは見てれば痛いほどわかるが、それでも思っているのと思っていないのでは上達の早さも違う」
「・・・ああ。」
「もっと自信を持って構わん。ここ数日で上達はしてるからな」
「・・・わかった。ありがとう。わりぃな。毎日付き合わせて。」
「かまわん・・・お前の魔法に関する駄目っぷりはよく知っているからな」
「何だ、その駄目っぷりって!!」
「言葉のままだが?」
「俺だってあいつがここに来てから真面目に魔法の勉強するようになったんだぞ!?」
「・・・どうだか・・・」
「ひでぇ!!」
「率直な感想を述べただけだが・・・ひどいことを言ったか?」
「お前の言葉一つ一つが全部ひどいぞ!!」
「・・・お前の言葉が一番ひどいと思うが・・・?」
「お前が吹っかけてきたんだろうが〜!!!」
ひたすら吼えるタイム。
大分彼らしさが戻ってきた。
「・・・そろそろ帰れ。暗くなってきた。お前も大分魔力を消費してるみたいだしな」
「・・・ああ、そうだな・・・あいつも心配するだろうし」
「それと・・・」
「ん?」
「明日は練習するな」
「は?!なんで!?」
「・・・明日、何の日だかわかるか?」
「あ?わかんね。」
ふうと思いっきりため息をつく。
「なんだよ、そのため息は・・・」
「鈍感な奴だと思ってな・・・」
「んだとぉ!?」
「明日はほぼ間違いなく日が昇らないだろう・・・」
「・・・あ〜・・・」
そう、明日は闇空になるだろう。
闇空になると魔力が強くなる。
それが故、制御が大変になってしまうのだ。
成功するならいいのだが、タイムの場合、一度も成功した例がない。
失敗すると、そのリバウンドが大きい可能性がある。
今はかすり傷ですんでいるが、最悪の場合、死もありえる。
さすがにそれは理解したようだ。
「・・・わかった」
「・・・気をつけて帰れ。いいな」
「ああ。じゃあな!明日・・・は、学院休みか。じゃあ、明後日な!!」
「ああ。」
走り去るタイムの後姿を見送る。
・・・誰かのために・・・か。
さっきはどうだかなんていったが、彼があの時以来がんばっているのは知っている。
授業にも真面目に出ているようだ。
そして今も、前まではろくに練習しようとしなかった魔法までやっている。
「・・・」
・・・私も、あそこまで思いに向かって感情的に走れれば・・・
そんなことを考え、すぐに打ち消す。
・・・私は、言われたことだけをやっていればいい・・・感情的になる必要など・・・
それ以上考えるのは嫌になって、自分も帰路についた。
おそらく具合が悪くなっているであろうマスターのところに。

* * *

スカイの予言は見事に当たった。
翌日、朝にもかかわらず出ている月を眺めながら思った。
俺は今、外にいる。
別に魔法の練習がしたいわけじゃなくって、ただ一人になりたくて出てきた。
・・・大切なものが奪われた瞬間が目の裏に浮かぶようで。
あの鋭い風の刃が襲ってきそうで。
その風の力を使って・・・何かを守る。
本当に・・・それができるのだろうか。
「・・・戻ろう・・・」
これ以上一人でいると、本当に嫌な気分になりそうだ。

家に戻ると母親が迎えた。
「お帰り。何処行ってたのよ、闇空なのに・・・」
「・・・良いじゃねえか別に・・・」
「コーラルちゃんが探しに出ちゃったのよ?会わなかった?」
「へぇ・・・コーラルが・・・って!何だって?今なんていった!?コーラルが俺を探して外出しちまった!?」
ちなみにコーラルはこの都市に家がないから、とりあえず俺の家に下宿中だ。
「会ってないの?」
「会ってねえよ!!なんで止めなかったんだよ!」
「止めたわよ。でも、タイムが心配だからって・・・」
「・・・くそっ・・・」
俺は入ってきた扉をまた開けて。
「タイム!」
止める声を聞かず、外に飛び出す。
さっきまで見えていた月が見えなくなっていた。
その中、俺は走っていくと・・・
ポツッ・・・ポツッ・・・
「・・・?」
ポッポッポッ・・・ザアァァァ・・・
「くそっ・・・雨か・・・」
だからと言って立ち止まるわけにもいかない。
引き返すわけにもいかない。
ひたすら、走り続けた。

進むうちに地盤がしっかりした道ではなく、緩んでいる道に入った。
そこは木々が生い茂る森で、左側は崖で、土砂崩れが今にも起きそうだ。
「何処にいるんだ・・・」
「・・・か・・・す・・・く・・・」
「ん・・・?」
今、誰かの声が聞こえた気が。
走っているとバシャバシャという音にかき消されてしまうため、一度立ち止まり、耳を澄ます。
「・・・れか・・・すけ・・・」
聞いたことある声が、どこかでする。
俺は更に進んでみる。
と、その声のするほうがわかった。
誰の声だか、まだ判別できない。
コーラル・・・じゃないみたいだけど、ほっとけなくて。
そっちに向かって走っていくと。
誰の声だか、わかった。
なんといっているかも。
「誰か、助けてください!!」
ルカだ!!
「ルカ〜!!何処だ〜!!!」
俺は走りながら叫ぶ。
「こっちです!!」
こっちって言われても。
崖のほうからするのはわかるんだけど。
とりあえず、そっちに向かうと、次第に影が見えてきた。
そこにいたのはルカと・・・
「コーラル!?」
コーラルだった。しかも。
「なんでっ・・・」
「さっきここで土砂崩れがおきて・・・僕は何とか避けられたんですけど、コーラルさんは・・・」
コーラルは気絶していて、土砂の下敷きになっていた。
幸い、胸から上が出ているので息はできるようだが・・・
一方のルカはというと。
「助けを呼びたかったんですが、足をくじいちゃって・・・動けないんです・・・それに、この姿だと・・・」
「封環、どうしたんだよ」
「それが、よけた弾みに外れたらしくて・・・」
まさに災いに災いが続いちゃったって感じだな・・・
「助けに来てくれたのがタイムで、ちょっと安心しました。それどころじゃないんですが・・・」
「お前、魔法でなんとかなんないの!?」
「僕の水魔法は、逆効果の可能性が・・・」
とルカが言った時だった。
上で、嫌な音がした。
「・・・っ!!」
「さっきの土砂崩れで、ゆるんで・・・!?」
まさに土砂崩れ再びおきますって感じだった。
「どうすれば・・・」
「・・・試すっきゃないか・・・!!」
あの魔法を。
今この状況で、一か八かに出るのは間違いかもしれないが、これ以外に3人が土砂崩れからのがれる方法が思いつかない。
「え・・・?」
「・・・εγτξαπьхсбйжхчесяψδεσλэцё・・・」
うまくいっている。
それはきっと・・・守りたいと思うからだろう・・・
だれよりも大切な人を。
「・・・ифдрωζλτρασβθ・・・」
上のほうで、崖が崩れる音がする。
「タイム、急いで!!」
「・・・μωщса・・・!!」
手元の魔方陣が光る。次の瞬間。
ビュウゥゥウゥ!!
風が吹きすさぶ。
・・・聞いていた話よりかなり大きな風が吹いている気がするのは・・・気のせいか?
「わっ・・・」
ルカが思わずたじろいでいる。
上から降ってきた土砂が風によって吹き飛ばされる。
と、同時にコーラルに覆いかぶさっていた土が飛ぶ。
風が舞い続け・・・収まった後には・・・
まるで何もなかったかのように、雨が降り注ぎ始めた。
「・・・助かったみたいですね・・・」
「よかった・・・成功した・・・」
「初めての成功だったんですか!?」
「あ・・・ああ。」
「賭けに出ないでくださいよ・・・」
「ま、いいじゃねえか。うまくいったし。っていうか、早く離れたほうがいいな。またおこんないとも限らないし・・・」
「そうですね・・・」
なんとか俺はコーラルをおぶった。
と、俺の目に、光るものが目に止まった。
「あ、封環。」
「え、どこですか?!」
「俺の足元」
「あれ?さっきはなかったんですが・・・」
「風ででてきたのか?」
「かもしれませんね・・・」
ルカはそれを拾い上げて、泥を払い髪に戻す。
エルフ状態だったルカが普段の姿に戻る。
「ってか、歩けるか?肩貸そうか?」
「でも・・・」
「ま、なんとかなるって。」
「すいません・・・」
俺の肩を借りてどうにか立つ。
俺は正直、つらかったが、弱音を言ってる場合じゃない。

街に出てたら、なぜかスカイがいた。
この状況を見て、固まるスカイ。
「・・・手を・・・貸そうか・・・?」
「いちいち聞かないで貸してくれ!」
とりあえずルカをスカイに任せる。
「すいません・・・ありがとうございます」
「気にするな・・・」
「そういやあ、ルカ。なんでコーラルと一緒にいたんだ?」
「僕が森の中にいたら、コーラルさんが来たんです。僕を見てコーラルさん、「タイム見なかった?」って聞いてきたんです。僕が知らないって答えると同時に崖が・・・」
「そうか・・・俺がちょっと一人になりたくて外出したばっかりにこんなことになっちまったんだな・・・」
「次からはコーラルさんにちゃんと言ってから行ったほうが良いですよ」
微笑を浮かべながらルカは言った。
「そうだな」
「・・・何があったんだ」
状況を理解できていないスカイが口を挟んだ。
「僕が説明しますよ。タイムはコーラルさんを。」
「そうだな。悪い、先行くわ!じゃあな!」
俺は二人を残して家に帰った。

家に戻ってからは何かとバタバタした。
まあ、この状況からすれば当たり前なんだけどな。
コーラルは外傷があるものの内臓や骨に異常はないらしく、安心した。
そして、俺たちが家に戻って数時間後。
「ぅん・・・」
ようやくお目覚め。
「・・・ここ・・・は・・・?」
「俺んち」
「ってタイム?!」
そこまで驚くなよ。
「はぁ・・・まったくお前って奴は・・・闇空に出歩くなって言っただろ!?」
「だって・・・タイムがいなかったから・・・心配になって・・・っ」
「それは・・・悪いって思ってる・・・次からはちゃんと言ってから行くようにするよ・・・だけど、お前も勝手にちょろちょろするなよ?探すのが大変なんだからさ・・・」
「うん・・・ごめん・・・」
「ま、見つかってよかったけどさ。」
「あ、ルカは?ルカはどうなったの?!」
「あいつは捻挫したみたいだけど、ま、スカイに預けたし大丈夫だと思うぜ。それより自分の心配をしろよ。」
「うん・・・」
そういって、俺はちょっと考えた。
なんであんなに大きな風が吹いたのか。
あの魔法って、あそこまででかい風が吹くのか。
その時、ふと思ったこと。
「・・・闇空・・・だからか・・・?」
「・・・?どうしたの?」
「いや・・・」
もしあの魔法が普段はあそこまで大きな力を発しないとすれば。
スカイから聞いた話しだと土砂崩れを防げるような魔法じゃなかったはず。
ということは、やっぱり・・・

俺は闇空の日に、その力を利用した上で、風の力で大切な人を守ったのか。

あの日の記憶とはまるで逆の出来事だ。
大切な人が奪われたか、守れたか。
すべては、その人の思いによって代わるのか。

あの日、大事な人が奪われたのは。
魔法のせいじゃないんだな。

そんなことを考えていたら。
「タイム〜どうしたの?」
「いや、ちょっとな、考え事。」

自分の中で、何かがすっきりしたのを感じた。

* * *

「聞いたぞ、タイム」
「あ?」
翌日、学院でスカイに会った時の第一声がそれ。
「あの魔法を使ったらしいな」
「あ?ああ、成功するかどうかわかんなかったけどな。闇空のおかげで、いいほうに流れてくれたぜ。」
「馬鹿だからその場の雰囲気によって成功するか失敗するかが変わるんだな」
「・・・待て。なんで『馬鹿』だからなんだよ」
「馬鹿というのは、その場の雰囲気に流されやすいからな。」
「まてまてまて・・・」
「今やれっていったらできないだろうしな」
「いったな!やってやろうじゃんか!!」
そういって呪文の詠唱を始める・・・が。
「・・・εγτξαπьхсбйжхчесяψσβ・・・」
げ。
バキッっと鈍い音と風の刃。
「やっぱりな・・・」
「だ〜っ、なんで昨日はできたのに!?」
「だから馬鹿だっていっているんだ・・・」
「うっわ〜、すっげぇむかつく!絶対いつでも使えるようになってやる〜!!」
そういって俺はそこを逃げるように去る。
でも、いつでも使えるようになりたいというのは本当。
だって。

せっかく風と歩むって決めたんだからさ。

〜FIN〜

言い訳
「呪文の詠唱がどんなものかがわからなくて、今回、適当にギリシャ文字とロシア文字を並べたようだね・・・解読は本人にも不可能だから、聞かないでほしい。本当に適当に並べただけのようだからね・・・あと、このssは当初、スカイとタイムの掛け合いは入らない予定だったみたいだけど、なんか好評みたいだから入れたみたいだね。ただ、道行マリルはギャグは本来不得意らしいので、つまらない可能性が高い。ま、気にしないでくれると助かる。そして、今回、道行マリルが犯した最大のミス。それは・・・この私を出せなかったことみたいだね。せっかくダリルエンドで書いたにもかかわらず。そのため、こんなところで出ることになるとは・・・まったくだな・・・というわけで、道行マリルに変わって、私、アトルが言い訳をしておこう・・・」

Written by Doukou-Maril
2004年4月9日




道行マリル様から頂きました、タイムのその後のお話です。
コーラルに出会えたことで、魔法の価値観が変わりつつあるタイム。
魔力が増大する闇空の日も、全て悪い方向ばかりではない、という感じが好きです(^-^)
素敵なSS作品をありがとうございました。

2004年4月14日 : 中原 良