* 「翼をください ~Another Story~」 作 : 道行マリル 様


集中教育の期間が終わり、魔法学院シルから集中教育の生徒独特の制服が消えた。
学院はその短い一週間などなかったかのように、また元のように時を刻み始める。
だが・・・私たちの周りでは・・・たった一週間で何かが変わってしまった。
特に・・・私は。

「もう冬も終わりですね・・・」
ポツっとそんなことを漏らす人がいた。ルカだ。
「だなぁ・・・また暑くなるのか・・・うへぇ・・・」
タイムがそれに続く。
今、ダリルは冬が終わり、春に差しかかろうとしているところだった。
春はともかく、夏が来たら・・・中々耐え難い暑さがある。
今、私たちは学院の近くの木下の影で涼んでいた。
私たちというのはルカ、タイム、そして私の三人だ。
う〜っと声を上げながらタイムは草原に横になった。
「そういえばタイム、もうすぐ定期試験ですが・・・大丈夫ですか?」
「あ〜・・・なるようになるさ。」
「・・・・・・タイムらしいですね」
ルカはタイムの返事に一瞬沈黙し、ようやく見つけた答えは非常に曖昧。
「・・・まあな。」
そこで会話が止まってしまう。
沈黙が痛い。
「・・・調子出ねぇ・・・」
タイムがボソッと言った。
「・・・」
「・・・」
私もルカもなんと言ったらいいのかわからず、やっぱり沈黙。
タイムの調子が出ないのが、彼に鋭く突っ込む人がいないからだ。
数週間前まで、彼に突っ込みを入れていた人は今はいない。
さっきの「なるようになるさ」というタイムの台詞。
そこで返すべき返事は「・・・楽天家・・・」なのだ。あるいはそれに似た台詞。
それを聞いてタイムはタイムらしく燃えるのだが・・・
あいにく、ルカはそういうのは得意ではないし、私はそれどころじゃないといった感じだ。
私は今となっては・・・情けない話、自分にいっぱいいっぱいだった・・・
周りはタイムがおとなしいと静かで言いというが、私としては、タイムにはやはり賑やかでいてほしいと思う。
しかし、彼は調子が出ないようだ。鋭い突込みが無いせいで。
「・・・俺・・・さ・・・」
タイムがまた話し出した。
「正直言えば・・・あいつのこと・・・横からうるさいやつだって思ってた・・・だけど・・・やっぱり、あいつが横からあ〜だのこ〜だの言ってたから・・・俺は熱くなれてたんだな・・・冷静な奴がそばにいたから・・・俺らしくいられたんだなって思う・・・」
どこまでも広い空を眺めながら、そう言った。
「・・・」
それを聞いた私は、その場にいられなくなり、その場を離れた。
「タイム!無神経ですよ!!」
「えぇ!あ〜やばい、ごめん〜!!」
ルカに怒られ、タイムが謝る声が後ろから聞こえてくる。
私はそれを振り切るかのように歩き続けた。

気づいたら海辺にいた。
海から吹き付ける風は、非常に生ぬるかった。
「・・・」
ちょっと前にした会話が頭をよぎる。

『・・・私は海が好きだ。誰もいない、静かな海が。
逆に・・・人が多いところは嫌いだ・・・息が詰まるから・・・』
「そうなのかい?」
『ああ・・・だが・・・』
「だが?」
『何故・・・私に・・・』

「アトルさん・・・」
不意に声をかけられ、私ははっとして振り返る。
ルカだった。
「どうしたのだい?」
「いえ・・・タイムが謝ってましたよ。無神経すぎたって。そのことを一番気にしてるのはアトルさんなのに、軽くそのことを口にしてしまったことを・・・」
「・・・気にしなくていいんだよ」
「・・・でも・・・」
「・・・いつかは来る日だったのさ。彼を組み立てた時点で、その日はいつか来るってわかっていたことさ。ただ、それが予想より早く、思ったより唐突だっただけだよ・・・」
そういって、また海に視線を戻す。

その日は突然やってきた。
『マスター。』
「ん?どうしたんだい、スカイ。」
『相談したいことが・・・ある』
「何かな?君自身の・・・ことかな?」
『・・・ああ。・・・マスター・・・行きたい場所がある・・・』
「行きたい場所?」
『・・・コーラルの住む世界だ。』
「コーラルの?」
『彼女が住む世界は・・・この世界ではない・・・時を越えた場所にある』
「・・・どうやってそこにいくんだい?」
聞きたいことは他にもあったけれど、とりあえずそこから聞く。
そこでスカイはポケットに手を入れ、またすぐに出した。
そして握った手を彼が開くと、そこにあったのは。
「・・・タリスマン?」
『そうだ。』
「これを・・・どこで?」
『コーラルが、先ほど、渡してくれた。彼女が作った』
「コーラルが?!コーラルは、それで無事なのかい!?」
『・・・まったく感じられないと言っていいほどまで魔力を消費している。彼女は今日の夕方、街中で倒れていた。タリスマンの店の前で。急激な魔力の消費によってな。私が寮の部屋まで運んだ。その時は・・・気づかなかった。彼女がタリスマンを作ったことに・・・さっき、コーラルが目を覚まして、話を聞いたときに・・・初めて知った・・・』
「・・・」
『彼女が時属性で、別世界の人間だと言うことは知っていた。だけど・・・まさか・・・こんなことを・・・こんな馬鹿なことをするとは・・・思わなかったっ・・・』
スカイの声色がおかしくなる。
それに気づいた私がタリスマンからスカイの顔に視線を移すと。
「・・・!」
『そんなことするってわかっていたら・・・話すことはなかったっ・・・』
スカイの瞳からあふれているもの・・・
魔法人形(マジックドール)には存在するはずのないもの・・・
きらきら光るそれはゆっくりと彼の頬を伝っていった。
『だけど・・・その一方で喜んでいる自分がいた・・・私のために尽くしてくれる・・・そのことに・・・』
その涙をぬぐうことなく、スカイは話し続けた。
『魔法人形である・・・私に・・・何故・・・感情があるのだろうか・・・そんなもの・・・ここにいる限りは・・・邪魔なだけだと・・・思っていたのに・・・コーラルは・・・ここから連れ出すことで・・・邪魔じゃなくならせようとしている・・・私のために・・・魔力を消費をした上でっ・・・』
そこで、私は前にスカイが口にした言葉を思い出す。

『何故・・・私に・・・好き嫌いが生じているのだろうか・・・何故・・・私に・・・感情があるのだろうか・・・何故・・・私は・・・』

こ ん な に も 苦 し い の だ ろ う か

スカイは・・・魔法人形にもかかわらず、感情を持ってしまったことを苦しみ続けた。
そのスカイに・・・苦しいと訴えてきたスカイに・・・私は何もしてやれなかった。
こんなに無責任なマスター・・・親があったものだろうか。

『私は・・・私に感情を押し殺す必要が無いと言ってくれた・・・コーラルが・・・好きだ・・・離れたくない・・・だが、彼女は・・・明日になれば・・・元の世界に帰っていく・・・それが嫌だと・・・思っていた・・・その矢先に・・・一緒に来ないかと・・・タリスマンを渡してくれた・・・私は・・・彼女の傍に・・・いたい』
スカイがそこで口を閉ざした。
彼が・・・自分の感情に素直になっている台詞。
「スカイ・・・念のために、確認するよ。コーラルの傍にいたいというのは・・・他ならぬ・・・君の思いなんだね?」
『私は・・・この思いが・・・自分の「心」と呼ぶべき場所からあふれているかまではわからない・・・だが・・・この思いは・・・間違いなく・・・私のものだ』
きっぱりとした口調。
「そうか・・・」
そこで沈黙が流れる。
決断しなければならない。
私では・・・スカイのためにはなってやれないのだから。
苦しむスカイに何もしてやれなかったのだから・・・
それだったら、彼の願いを聞いてやるべきだろう・・・
彼は、私の光となってくれた。
『翼』というなの光に。
私がつらいと思うとき、傍にいてくれた。
もう・・・十分だろう・・・
「スカイ・・・君は・・・もう魔法人形なんかじゃない。そういう思いを持った以上、心があり、心があるということは人間だということなんだよ。だったら、私のことなんて、気にしなくて良いのだよ・・・君が魔法人形で無い今・・・もはや私はマスターではないのだからね・・・それが君の思いだというのならば、それにしたがっていくと良いよ。」
『マスター・・・』
「だけど、これだけは覚えてくれないかな。君の名前の意味・・・『翼』を。もし、君がコーラルの傍にいるのだったら・・・君はコーラルの翼になってあげなさい。コーラルは君に手を差し伸べてくれたのだろう?今度は、君が彼女に恩返しをするばんだよ。君は賢いし、色んなことができるから・・・彼女が困った時・・・彼女の翼になるように・・・助けてあげなさい・・・いいね?」
『・・・わかった、マスター』
「・・・マスターではないといっただろう?」
『・・・アトラック』
「そう。もう君は・・・私の魔法人形ではなく・・・一人の人間・・・スカイ・リスターとして・・・道を歩んでいくんだよ・・・何物にも縛られてはならない・・・何物にも閉じ込められてはならないよ?・・・鳥かごの中に入ってしまった鳥ほど・・・惨めなものは・・・ないからね。」
そういって、私は強く、スカイを抱きしめた。
『・・・アトラック・・・』
「呼びづらいだろう?アトルでいいよ、スカイ」
『アトル・・・』
「・・・」
しっかりと抱きしめたまま、私は・・・
彼に見られないように・・・
涙を流した・・・

「・・・今、彼は自分の感情に素直に生きていることだろうから・・・幸せだろうから、彼を自由にしたことを、後悔してはいないよ」
「・・・アトルさん・・・」
夕日により真っ赤に染まった海を眺めながら言った。
「・・・でも・・・貴方は・・・光を・・・『翼』を失いましたね・・・」
「そんなこと・・・スカイを組み立てた時点で・・・」
「違います。彼が傍にいた時は、彼が魔法人形であった時は、明らかにあなたの物でした。それによって貴方は、随分楽になれていたはずです。彼は・・・貴方に・・・望んだものを・・・貴方の望んだ完璧な形まではいかなくても、光に・・・『翼』になっていたはずですよ。」
「ルカ・・・」
「・・・悲しみに・・・無理やり理由をつけたって・・・楽にはなれませんよ・・・」
「・・・そうだね・・・」
彼が去って、私は・・・やっぱり・・・光を・・・今度こそ完全に失ってしまった。
それは、自分を・・・苦しめている・・・
でも。
「でも、やっぱりこれでよかったのだよ・・・私は・・・彼を組み立てたことを・・・いや・・・『生んだ』事を・・・良かったって思ってる。」
「アトルさん・・・」
「彼を生むことで・・・私は自分のことを、再認識できたからね。強いて言うことがあるとすれば・・・」
そこで、一旦言葉を切って。
「光を失ったことより、翼を失ったことのほうがつらいってことだよ。無限の大空に羽ばたく・・・悲しみを乗り越えるための翼を失ったことが・・・ね・・・」
そこで・・・気づけば・・・また涙を流していた・・・
「やれやれ・・・随分、涙もろくなってしまったものだよ・・・」
「・・・」
ルカはもう何も言わず・・・ただ、傍にいた。

今、私が一番望むもの。
 それは・・・光より・・・

『翼』かもしれないね

〜FIN〜

Written by Doukou-Maril
2004年4月7日





道行マリル様から頂きました、「翼をください」の、もうひとつのお話です。
別れの瞬間、やっぱりアトルの傍にも、こんな風に1つの物語があったんだろうなぁ、と。
アップするのが予定より大幅に遅れてすみません(汗)
素敵なSS作品をありがとうございました。

2004年4月21日 : 中原 良